碧痕39 写真撮影の失効
39 写真撮影の失効
浦島の如く、帰還しない、したとしてもしたことにならないのは、夢の場合は極端に私的で一般化が追いつかないからであるのに対して、死体の場合は私的なものを極端に欠いた鏡像の極だからである。死体が何か秘密を保存しているとしたら、しかしそれは、既に均された生体の延長である。
天使を見たことはあるか、という経験の問は失効する。つまり、写真にはうつらない。法則的にも歴史的にも管理されない。その大気は、平均性でも提喩性でもなく、寿命なく、
均された法則(平均値)としての私は(擬態としての)寿命を鎧い、帰還しない私は(擬態としての)寿命を解いている。信長の謡い舞う敦盛は程度としての寿命を鎧う武者震いであるが、というのもそれは程度としての夢・幻であるからだが、帰還しない私が幻であるのは(擬態としての)寿命を解いているからであり、そのために浦島のように、迂闊にも400年が過ぎ去ってしまっているかのようにparaphrase(散文化)されもするのである。
タイム・スリップは、既視感のparaphraseである。二重の通過が双方を貫く。擬態と妥当要求の重心は、タイム・スリップに於いては直しさと真性に傾き、既視感に於いては「私」と誠実に傾くが、擬態の気配は消せない。直しさ―真性と「私」―誠実とは区別がつかなくなる。
暗殺された大久保利通の死体の創傷は五十数箇所、頭蓋は割れて脳味噌が震えている、それを実見した前島密は、その数日前に大久保がもらした夢の話を伝えている。断崖で西郷と格闘、抱き合って転落し、自らの死体を見下ろす、頭が裂けて脳味噌が微動している、というのである。
脳味噌の微動は正夢にしたい前島密の脚色くさいのであるが、この暗合、小説は前島密が夢から生還したということ(暗殺を予期した正夢として制御すること)なのである。一方、大久保が自らの死体を見下ろすのは、反夢としての死体に秘密をもることを以て死体を解き、死体から生還したかのように振る舞うことを以て夢から生還するかのように足掻くのである。つまり、夢を話すこと(夢から生還したかのように足掻くこと)が、自らの死体を見下ろすことに応化していて、西郷との崖上に追
い詰められた私闘と転落に応化(出現すると同時に潜伏)していることが何であれ、この応化を写真撮影したように自らの死体を見下ろすのである。
器官の延長上で国事に化けた暗殺死体は秘密を吐き出していて、反夢であるが、吐き出された秘密も応化して、二重に写真撮影が失効する。
浦島の如く、帰還しない、したとしてもしたことにならないのは、夢の場合は極端に私的で一般化が追いつかないからであるのに対して、死体の場合は私的なものを極端に欠いた鏡像の極だからである。死体が何か秘密を保存しているとしたら、しかしそれは、既に均された生体の延長である。
天使を見たことはあるか、という経験の問は失効する。つまり、写真にはうつらない。法則的にも歴史的にも管理されない。その大気は、平均性でも提喩性でもなく、寿命なく、
均された法則(平均値)としての私は(擬態としての)寿命を鎧い、帰還しない私は(擬態としての)寿命を解いている。信長の謡い舞う敦盛は程度としての寿命を鎧う武者震いであるが、というのもそれは程度としての夢・幻であるからだが、帰還しない私が幻であるのは(擬態としての)寿命を解いているからであり、そのために浦島のように、迂闊にも400年が過ぎ去ってしまっているかのようにparaphrase(散文化)されもするのである。
タイム・スリップは、既視感のparaphraseである。二重の通過が双方を貫く。擬態と妥当要求の重心は、タイム・スリップに於いては直しさと真性に傾き、既視感に於いては「私」と誠実に傾くが、擬態の気配は消せない。直しさ―真性と「私」―誠実とは区別がつかなくなる。
暗殺された大久保利通の死体の創傷は五十数箇所、頭蓋は割れて脳味噌が震えている、それを実見した前島密は、その数日前に大久保がもらした夢の話を伝えている。断崖で西郷と格闘、抱き合って転落し、自らの死体を見下ろす、頭が裂けて脳味噌が微動している、というのである。
脳味噌の微動は正夢にしたい前島密の脚色くさいのであるが、この暗合、小説は前島密が夢から生還したということ(暗殺を予期した正夢として制御すること)なのである。一方、大久保が自らの死体を見下ろすのは、反夢としての死体に秘密をもることを以て死体を解き、死体から生還したかのように振る舞うことを以て夢から生還するかのように足掻くのである。つまり、夢を話すこと(夢から生還したかのように足掻くこと)が、自らの死体を見下ろすことに応化していて、西郷との崖上に追
い詰められた私闘と転落に応化(出現すると同時に潜伏)していることが何であれ、この応化を写真撮影したように自らの死体を見下ろすのである。
器官の延長上で国事に化けた暗殺死体は秘密を吐き出していて、反夢であるが、吐き出された秘密も応化して、二重に写真撮影が失効する。


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