Thursday, November 10, 2016

碧空886 言葉の危機

886 言葉の危機  Miss Rosa Coldfield は薄暗い廊下に潜んでこっそり窺っているが、一般性という隠蓑を羽織っているのではなく、目立つ。これは隠れなさなのだろうか。スパイではないが窃視するのであり、誰にも信じられない予言をするというよりは、成就してから予言する。過去は予言であるかのようで、命令になる限りで上り詰めて来る記憶は予言の練習であり、物語からの不思議な生還なのである。真偽や実在か蜃気楼かはどうでもいいのであり、宿主とも寄生体ともつかないために、ジェファソンに局在するかのように遍在する。老ローザが話すことは、訂正がきかない言葉の危機である。  両性具有と呼ばれている混合種は、壁に写る影が個虫のようになんと全体であるのではなく、漠としたErosの萌芽である。老若の区別をおかされたローザは両性具有のように輪郭喪失なのではなく、部分の振りをする個虫であるが、その生気の正体は有性生殖の漠とした焦燥に相当する。Dracula は1の危機であるが、そのようなものとしてMiss Rosa Coldfield も1を躱せない。女体性に面しても個体性に面しても胸が潰れるように疑わしいのである。  老ローザは、一族が一堂に会して話し出すような「伽藍」であるQuentin に話しかけるのではなく、Quentin の声帯を通して話しているのに口唇から出るのは老ローザの声なのであり、それは、「伽藍」であるQuentin が老ローザの声帯を通して話し出すのと区別がつかない。老ローザの声帯である「伽藍」は、いくら奥へ突進しても止まっているサトペン屋敷の(いくら叫んでも誰にも届かない)鼠蹊部を別解とするような言葉の危機である。女体性に面しても個体性に面しても胸が潰れるように疑わしいように、言葉に面しても被凌辱的であるように(誰にも届かない)予言じみてしまうのである。 (「Absalom,Absalom」)

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