碧空1280 MOON WALK198(逆跳躍、生きられる焦燥)
1280 MOON WALK198(逆跳躍、生きられる焦燥)
十字軍の勇将ギマール・ド・アサールは、捕虜となって治療を受けていたとき癩病に罹っていることを告知される。始めは帰国を断念したものの八年をかけて還る。この帰還とラザラスと名乗る巡礼は、指がとれ顔が崩れた名もない存在であることを隠蓑にした履歴改竄、失踪である。
失踪の一つの解として客観に転写されたラザラスは忽ち問としての「ラザラス」に変装して、ラザラスを包む遠近法とはまるで何か違う奥行となっていざなうことになる。すなわち「ラザラス」は解明されたがっているのに解明されないでいる焦燥である。それは、命令が次元跳躍して現実になる、そうした服従の運動が起こらないで、起こるためには潜伏するはずの命令が飛び出してしまい、後れて来るはずの主体が先走ってしまう、あの、空回りして脂汗をかく金縛り状態にも酷似している。
尼僧院でマリア!と叫ぶと周りの誰もがマリアになってしまう擬似受胎告知ように、頭巾とヴェールを被って拍子木を鳴らして癩病感染の警告を出す顔のない誰もが「ラザラス」になる。擬似復活は、死体になるまで器官を延長した犯人が死体と入れ替わって失踪する双子のトリックが解けることであるが、果たしてギマール・ド・アサールの擬似復活は、あの墓場から蘇ったラザラスとは違って東方にあるはずの死も同然の癩病告知からもう一体の癩病が脱け出すようにしてラザラスになる履歴改竄の、その失踪のトリックが暴かれてギマール・ド・アサールの輪郭喪失(幽霊性)が解消することであるが、と同時に「ラザラス」に逆跳躍してぎりぎり生きられる焦燥である。
それは、誰と入れ替わったのか分からなくなる復活の、その隠れなさに(のぞき穴を盗まれた世界の終わりに)被曝しているのではないが、濃厚な眠気のように焦燥が、憂愁のようにもの深い催眠暗示が覆いかけるのである。(「The Leper of St.Giles」E.Peters)


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