碧空3566 nautilus1909(嘘の滝壺の覚悟)
3566 nautilus1909(嘘の滝壺の覚悟)
スワがおそるおそる鏡をのぞき込むと、「色が抜けるように白く、頬はしもぶくれでもち肌であった。眼はあくまでも細く、口髭がたらりと生えていた」のではなかったが、大蛇になってしまったのだと思っているから、口ひげを大きくうごかした。(「魚服記」太宰治)
「小さな鮒であったのである。ただ口をぱくぱくやって鼻さきの疣をうごめかしただけのことであったのに。
鮒は滝壺のちかくの淵をあちこちと泳ぎまわった。胸鰭をぴらぴらさせて水面へ浮かんで来たかと思うと、つと尾鰭をつよく振って底深くもぐりこんだ。
水のなかの小えびを追っかけたり、岸辺の葦のしげみに隠れて見たり、岩角の苔をすすったりして遊んでいた。」
というような習性は味気ない、と鮒は胸鰭をこまかくそよがせて考える。仙術太郎が鼠や鷲や蛇や蟷螂にさえ化けれるようになっても、特段面白おかしい生活になるのではない。やがて真っすぐ滝壺へ向かって行って、たちまち、くるくると木の葉のように吸い込まれる決然性は、擬死のエラーなのではなく、嘘の滝壺の覚悟である。


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