碧騒330 埋没の気配、励起した症状の生まれ変わる気配
330 埋没の気配、励起した症状の生まれ変わる気配
飛行船ロード・ロバーツ・ベータ号によるポンタレヴォーのイギリス脱出は、月に照らされたサリー州やサセックス州の風景、汽車がその風景を横切ってガタゴトいう音がはっきり聞こえて来る俯瞰ではあるが、猛禽類の鳥瞰ではなく、この飛行船もフランス海岸でばらばらに解体して海中に消える。ビアトリスに最後の一羽を励起した空中飛行(皮膚の輪郭の二重性)の解消であるが、ポンタレヴォー一族の亡骸を隠れなくした、このもの凄い土砂降りの底から、空中飛行は駆逐艇の航行となって生まれ変わる。テムズ河を河口へ海へ航行する、この駆逐艇は、ジョージ・ポンタレヴォーの生涯がイギリスの分業の組織形態の発展、変遷を圧縮して閲しつつ、その分業の網の目からつねに寄生的に失踪して来た「TONO-BUNGAY」(H.G.Wells)の鳥瞰図として、イギリスの器官の延長を沖積して流れるテムズ河の、その流域を模写するとも流域に転写するともつかぬままに、「静かなドン」のように大気を寂漠にする覗き穴である。しかし、この物語は「静かなテムズ」にはならない。空気のように居合わせる窃視の基調が、後世ガ既ニ始マッテイル、というような埋没の気配ではなく、皮膚の輪郭の二重性に励起した症状の生まれ変わる気配に傾いているからである。


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