Tuesday, August 02, 2016

碧空819 異常接近、位置異常

819 異常接近、位置異常  橋上を、橋下を流れる川波のように混濁して後退するロシア軍の歩兵、軽騎兵、砲兵、荷馬車と迫り来るボナパルトの青いコートの隔たりは500m 、二つの軍勢を分ける一線がその間に静かだが殆ど顕在的に(神秘に)潜んでいる。この隔たりは、隔たりの揮発した異常接近と区別がつかない。それは、生死を分ける一線ではなく、生きる状態を現実にするために影落とす位置としての死が、生とは懸け離れているはずなのに隔たりが揮発、異常接近してあふれ出しているのである。この決壊は、この世のものの影であるこの世が暴れているのである。この決壊に面して、初陣の見習士官ニコライ・ロストフの武者震いは、立ち竦む、殆ど棒立ちであり、何もしない怯懦、何もしないで走っている怯懦は誰にも見られていないが、何か隠れない。この、漠とした命中のようなものは何か。  待機してじりじり焦燥になぶられているどの兵卒の口のあたりにも現れる、何か見知らぬ厳しいもの、この、息を潜めるものは何か。  凡そTolstoi の叙述は、ホメロスのようには遍く吹き込まれていない。しかし、この口のあたりに目をみひらく位置異常はそうではない。

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